昨日は、川口リリア音楽ホールにて初演を迎えた
オペラのまど 第一回公演
「オペラ 注文の多い料理店」
を鑑賞してきました。
前田佳世子さんの音楽は初めて聴いたのですが、とても舞台的な音楽（音楽を聴いただけで、情景が目に浮かび、登場人物の気持ちの変化が手に取るようにわかる）で本当に素敵でした。
出演者の熱の入ったパフォーマンスにも大拍手！
再演されるのが今から待ち遠しいです。
●オペラのまど とは？
一般的に敷居が高いと考えられがちなオペラという総合芸術を、より簡単に楽しく鑑賞できるよう、オペラを観たことのない子供から大人まで一緒に楽しく観られるオペラ作品を制作し、公演を行う団体です。日本人にとって分かりやすいオペラというのは、まずは日本語で書かれていなければいけないとの思いから、日本語のオペラ制作を信念に掲げていて、今回の「オペラ 注文の多い料理店」はその記念すべき第一回公演の初演でした。
子供も一緒に楽しめるという事から、童話などを題材にしたり、教育機関との連携によるオペラ公演なども目指しているのだとか。確かに、物語のあらすじを知っているだけで、オペラ鑑賞のハードルは、ぐんと下がりますね。ぜひこれからの活動に注目していきたいです。
●装飾歌唱について
「オペラ 注文の多い料理店」でとても独特だと感じた点が「装飾歌唱」の技法をふんだんに取り入れているということ。装飾歌唱とは、言葉を多くの音符で飾り歌う歌唱法で、いわゆるオペラっぽい歌い方のことです。「オペラのまど」の代表の野間愛さんが「装飾歌唱を行うための歌唱技術が歌手の身体という楽器の鍛錬だ」という考えを持っていらして、その他の様々な理由からこのオペラにも装飾歌唱が取り入れられる形になったようです。観客には、より分かりやすく下りてきてくれるオペラである一方で、実は歌い手にとってはとてもレベルの高い技術を要求する作品なのですね。
そんな装飾歌唱ですが、はじめてオペラを聴く方にとっては、よく言えば「華々しく」感じられますが、言い方を悪くすると「まわりくどい」という印象を与える事もあるかもしれません。一つの音に到着する前にたくさんの細かな音階をたどって行くものですから。ただセリフを言うのではなく、このような音楽的な「盛り」を入れる事によって、歌で高揚した感情表現が可能になっているとも言えるかもしれません。
さて、そんな装飾歌唱たっぷりの歌を聴きながらふと感じたことがありました。
「まわりくどい」と言えば、クラシック音楽の世界でも、似たような音楽的な「盛り」は実はよくあります。例えば「偽終止」と呼ばれる音楽の進行。偽終止が使われると、終わりそうに見せかけたところて聴き手の予期せぬ終わりっぽくない和音が突如登場し、予想とは違った音楽へと進行していきます。お別れ前のちょっとしたサプライズで印象を強くするようなものでしょうか。また、音楽だけでなく、演劇の世界でも、大抵の登場人物は心に思っている事を素直に言わず、時には比喩を使い、時には正反対の言葉を使って自分の真の感情を遠回しに、しかし着実に表現するという事が多いと思います。
●まわり道の術
芸術の世界では当たり前のようによく用いられるこのようなまわり道の術、考えてみるとなんだかとても不思議です。日常生活では利便性が強調され、「わかりやすく」「簡潔に」「スピーディーに」が鉄則の世の中。まわり道ばかりの芸術文化に浸っていると、その鉄則からはどんどんずれていきそうです。
いえ、実はまわり道こそ、芸術の本質なのかもしれません。事実を事実として伝えるだけなら、演劇も音楽も生まれる必要はなかったのかも…でもそれらが生まれてきたのは、そのまわり道の部分に芸術の本質的な部分というか、人間にとっての大切な何かがあるからなのかもしれません。まわり道しているからこそ、周りがよく見えたり、自分や他人を客観的に見たり、または思いもつかなかった出会いに遭遇したり。
オペラの装飾歌唱から、生き方なんて大きな事を考えだしてしまいましたが、それもまたまわり道の一つ。芸術鑑賞の醍醐味かもしれません。メールやSNSなどで瞬時に世界中のたくさんの人たちとのコミュニケーションが可能な現代。目の前の事ばかりに気を取られてしまいそうになる世の中に生きているからこそ、時にはまわり道しながらのんびりと大きな事について考えてみる時間も必要かもしれませんね。
最後になりましたが、オペラのまど代表の野間愛さんは、5月26日のこどもと大人のためのコンサート「『そら』にうたえば」にご出演頂く予定です。オペラとはまた違った歌曲の魅力たっぷりのプログラム。ぜひお楽しみに！